高木徹「ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争」読み中
講談社文庫 ISBN:4062108607

文庫裏表紙の宣伝文句を引用

セルビアを非難に向かわせた「民族浄化」報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの情報操作によるものだった。国際世論を
つくり、誘導する情報戦の実態を圧倒的迫力で描き、講談社ノンフィクション賞・新潮社ドキュメント賞をW受賞した傑作!

PR会社ルーダー・フィン社のジム・ハーフとそのチームがボスニア・ヘルツェゴミナ共和国政府から受けた仕事は、軍事力ではかなわないユーゴ連邦政府セルビア側)から独立を果たすために、国際世論を味方につけるというもの。
ジム・ハーフらの思考方法は、国際世論の形成にはアメリカ政府に「鶴の一声」で鳴いて貰うという算段。
だが、欧州の片田舎の国内紛争に、アメリカ政府もなんの大義名分もなしに、政治的制裁や軍事力の行使はありえない。
ならば、アメリカ政府に「やる気」もらうためには、ボスニア紛争に対する「セルビア、ゆるせん!」という国内世論を作る必要がある、という論法。
まだ初っ端の部分しか読んでないが、タイトルの「戦争広告代理店」はちょっと吹かしすぎではないか?
ボスニアヘルツェゴビナ政府の依頼に応え、大活躍するPR会社。その辣腕の本籍はタイトルで謳う「広告代理店」ではないだろう。
PR会社ルーダー・フィン社は、さまざまなツテやノウハウを用い、アメリカ政府に依頼主の望んでいるアクションを促すことを生業にしているのだから、これはさながら政治的理念なのない雇われロビスト、圧力団体という性質のものだと思う。

一時日経新聞確定拠出年金401kの導入をやっきになって煽っていたことを思い出した(あれはいったいどうなったのか?)。また、朝日新聞の常日頃の中国寄りの意見は日本国内のどの勢力の利益につながるのか。
邪推ではそれらは単に日経なら日経の、朝日なら朝日の利益のみを代表しているに過ぎないと思う。
ボスニア紛争を国際世論化するにいおて、くだんのジム・ハーフのチームは英、仏、独の新聞社へも情報を流したが、日本の新聞社はその外に置かれたと高木氏は報告し、これは日本語で書かれた新聞に訴求効果なしという彼らの判断だったとみているようだ。
しかしサンケイなどは実に勇ましい主張にあふれているわけで、国内世論に対する影響はゼロではないはず。だとすれば、日本の新聞およびその他マスメディアが形成にいそしむ「世論」は、アメリカのPR会社が念頭するものと質および形成プロセスをまったくことにするものではないだろうか。「ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争」が衝撃的に映るとすれば、それはこの国のマスコミ環境に一因があると思う。



ドキュメント 戦争広告代理店
ドキュメント 戦争広告代理店高木 徹

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