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○2005年 読書の収穫
今年の読書傾向は歴史ものに偏った。
「幕末気分」が面白すぎたせいとその余勢かって司馬遼太郎ブーム到来のためである。
司馬遼ブーム余波の「忍者」への関心から、「坊ちゃん忍者幕末見聞録」を読み、そこから一人称問題と奥泉光の文体模写の二股に興味が分裂した。前者の興味から「オレは非情勤」を、後者から「『我輩は猫である』殺人事件」を読むに至った。
「丸山眞男とその時代」は、私にとっての司馬遼問題を考えるうえで大変参考になった。
また、稲葉振一郎の「「資本」論」は、長尾龍一「リヴァイアサン」を手にとるきっかけを与えてくれた。
強烈な印象を受けたのは、増井経夫「大清帝国」。これを読むきっかけになったのが、加藤徹「西太后」。主権国家の勃興と旧式帝国の没落。その渦中に生きた西太后とは俗に語られるような極悪人ではなく、単に長生きした婆さんだったというハナシに度肝を抜かれた。
「ユリイカ オタク対サブカル特集号」は、ようやく80年代の呪縛から抜け出せたような印象を感じた。「魂の労働」の版元であるだけに感慨深い。
8位の「まぼろしの大阪」は、モダンシティー大阪の痕跡を坪内が辿る旅。本人も「想定外」のドエライものを掘り当ててしまった感あり。
ベスト10を選ぶ作業はパフォーマンス的な意味合いが強く、順位はさほど意図はない。ただ、私の関心は司馬遼太郎本人のキャラに集約されるから、彼の作品はランキング外とした。
かといって私は司馬遼太郎に恨みがあるわけではない。ビートルズや手塚治虫がそうであるように、大変影響力をほこったポップカルチャーの供給者として、司馬遼太郎を評価するのにやぶさかでない。そうであるからこそ、「司馬遼太郎さんの予言」(文春本誌2006年1月号)で養老孟司が言うように、司馬遼太郎作品を戦後日本の大衆資産と、あるいは戦後日本の無意識と眺めるほうがはるかにオモシロイと思う。
高田里惠子、長山靖生、奥泉光の三人は今後の読書ライフの指針になってくれると期待する。
1位 増井経夫「大清帝国」
(講談社学術文庫 ISBN:4061595261)
2位 竹内洋「丸山眞男の時代」
(中公新書 ISBN:4121018206)
3位 長尾龍一「リヴァイアサン―近代国家の思想と歴史」
(講談社学術文庫 ISBN:4061591401)
4位 野口武彦「幕末気分」
(講談社文庫 ISBN:4062750384)
5位 「ユリイカ 2005年8月増刊号 総特集 オタクvsサブカル! 1991-2005ポップカルチャー全史」
(青土社 ISBN:4791701372)
6位 関川夏央「白樺たちの大正」
(文春文庫 ISBN:4167519119)
7位 加藤徹「西太后」
(中公新書 ISBN:4121018125)
8位 坪内祐三「まぼろしの大阪」
(ぴあ ISBN:4835609638)
9位 クリスチアナ ブランド 「はなれわざ」
(ハヤカワ文庫 ISBN:4150730032)
10位 高田里惠子「グロテスクな教養」
(ちくま新書 ISBN:4480062394 )
次点 稲葉振一郎「「資本」論」
(ちくま新書 ISBN:4480062645)
次々点 長山靖生編「海野十三戦争小説傑作集」
(中公文庫 ISBN:4122043964)
次々々点 奥泉光「坊っちゃん忍者幕末見聞録」
(中公文庫 ISBN:4122044294)
次次々々点 東野圭吾「オレは非情勤」
(集英社文庫 ISBN:4087475751)
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