○ノーキャッチボール、ノーライフ

キャッチボールスタジアムというのを妄想している。
私が構想するキャッチボールスタジアムとは、ナンジャタウンのような架空の町。けれども昭和な町の再現ではなく、平成の今をそのままトレースしたような町。
ロールプレイス選手とはその町でキャッチボールにいそしむ従業員を指す。彼らは架空町の住人であり、それぞれが役割を与えられいている。
役割というのは、第一に「藤尾正43歳)○○商事勤務」や「藤尾舞」(11歳」)、「藤尾孝之助(7歳)」といった架空のファミリーだったり、「富沢弘毅(油井沼商業高校1年(野球部))」、「五十嵐哲哉(油井沼商業高校2年(野球部))」といったふうに架空高校の生徒、あるいは三家勇(ミツヤ酒店店主@唐巻駅南商店街)、田柄良祐(ミツヤ酒店従業員)、寺沢初男(喫茶「恵比須」店主@唐巻駅南商店街)、園宮弘樹(中華屋「安房苑」)店主)、村野道夫(銭湯「兎湯」経営)、松山邦明(割烹「魚勝」店主)等など、唐巻駅南商店街通会の、往年の野球小僧のオレキレキたちといったあんばいを意味する。
彼らは町のイタルところでキャッチボールをしている。たとえば、藤尾正は娘と息子を伴い、自宅前の路地で、油井商の二人は体育館脇の木陰で、唐巻駅南商店街の店主たちは、市営グランドで、という具合に。このほかにもママさんソフトチーム唐巻レディー・サイドワインダーの横手美佐子(33歳)と入沢美津(40歳)もソフトボールでフライを捕球練習をしていたりする。
われわれ、ビジター(つまりキャッチボールスタジアムの客)は、スタジアム内の町を散策し、そこかしこで展開されるキャッチボールとそれに伴う会話のやりとりに耳を傾けつつ、キャッチボールを鑑賞するという寸法だ。
たまに後逸したボールがビジターのもとに転がってくる場合がある。そのとき藤尾家の長男坊、孝之助君(7歳)が、「すいませーん」と脱帽でお辞儀をし、返球を要求したりするので、そこは腕(肩?)の見せ所だ。バッシっとストライク返球をしたなら、「オジサンすごいや」という孝之助君(7歳)の賛辞が得られる。そして、そのときビジターと10メートルほど離れたところにたたずむ、藤尾家アルジ、正(43歳)と目線が合い、「やってますな!キャッチボール」、「いやー娘のほうが息子より筋がイイようです」という以心伝心の苦笑い混じりの無言会話があったりして胸がジーンとしたりする。
油井沼の野球部の二人は中学時代からのバッテリーで、五十嵐は肩に故障を抱えているというあらすじがある。彼らは病み上がりの五十嵐の肩を詩の心配しながら、短い距離での山なりのキャッチボールから始める。その際、「どう?五十嵐」、「うん、大丈夫そう」などという会話がある。
ビジターである我々はロールプレイ選手たち会話の端々から、彼らが担っている粗筋を読み取り、仮想の彼らの人生を想像し、その果てに自らの「今」を照らし合わせたりする。あるいは、現実世界の上司や妻や夫にロールプレイ選手を重ね、日ごろの自分の彼らに対する振る舞いを点検する。
そうこうしているうちにビジター自らなかの内なるミットがスパーンと小気味良い音を発していることに気づけばシメタものだ。
しかしこれは後ろ向きのセラピー行為ではない。身体と精神の両方にわたるイマジネーションの遠投的な散策なのだ。

是非とも実現させたい!!(馬鹿)