○人間、この無粋なるもの

夕刻帰宅途中、三毛猫がさーと私の方向に駆けてきた。先方は私に気付くと、左に舵を切り、印刷屋脇に停めてあるワゴン車も下に潜った。
するとさっさーともう一つの影がワゴン下の三毛のもとに走った。
黒猫だった。
ちょっと大きい目。薄暗がりに黒猫なので人相ならぬ猫相がはっきりしない。
三毛猫はワゴンの下でじっと動かない。どうやら怯えているようす。
「こら、(黒猫)あっちいけ、いじめるなっ。しっ、しっ」と私は黒猫を恫喝した。
黒は、さっさーと忍者さながらに立ち去った。私は動物に恩を売って気を良くし帰路についた。
ふと、もしやあの二匹は恋仲でなかったかと思いが胸を過ぎった。何かわけありな、猫目をさけての逢瀬を私はとんだ勘違いで邪魔したのではないか、と。
嗚呼人間、この無粋なもの。