野口武彦「幕末気分」読み中
(講談文庫 ISBN:4062750384)

収録の「道頓堀の四谷怪談」の冒頭部分を引用。

つい最近、日頃あまり足をむけることのない原宿の竹下通りを歩いて、あ、これは幕末だ、と突拍子もない考えが心に浮かんだ。
一瞬、仮装大会みまぎれこんだのではないかと思ったほどだった。長髪を後ろで束ねた若い男はちょんまげを結っているようだし、顔を蒼白く塗りたてた異装の少女たちが闊歩していた。唇に黒い口紅。銀粉のアイシャドウ。丸髷の鬘でウエディングドレスを着て駒下駄。白昼からぞろぞろ化生の者のパレード、人妖の群れの出現であった。幻想的というのではない。ハイパー現実的に存在感が満ちていた。周囲を見回すと、まともな服装とは何かわからなくなる。この人混みでは、自分の背広姿が仮装の一種であって、だから誰も気に留めないのだという錯覚に包まれる東京の一角の街頭風景であった。

サイコー。

幕末気分
野口 武彦

講談社 2005-03
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