■ - ヤスlog

○ポール・アルテ「赤い霧」
（早川書房 ISBN:415001759X）

巻末で芦辺拓がアルテ宛て私信風の解説を書いている。内容は、日本の新本格ムーブメントとポール・アルテとの共時性と共振性について。
僕たち日本とフランス、離れていたけど「同じ釜の飯」喰ってたんだね風のもの。
実は連中が喝采するほどアルテは新本格の作風に似ていない。
新本格は異様に長い。それも意味のない部分で長い、と思う。
アルテの作風はあっさりしている。余計な描写も蘊蓄披露の衒学趣味もない。
北田暁大の「嗤う日本のナショナリズム」（『世界』第720号（2003年11月号）、岩波書店)は、２ちゃんねら批判というよりも、知的なコミュニケーション活動であるはずのアイロニカルな語りが、こてこて陰謀論やベタなナショナリズムを発動するメカニズムをサンプルとして示し、そうしたメカニズムに鈍感すぎる日本の思想空間に一石を投じたものと思う（けれどやっぱり無視されている）。
当初新本格ムーブメントっていうのはアイロニカルでありつつロマン紡ごうという姿勢であったと思う（時代遅れ？バカじゃない、あえてそれに挑戦するつーの！）。けれど昨今の新本格は「新本格」というロマン形式にアイロニカルな視点すら呑み込んでしまったのではないだろうか。
芦辺や二階堂には気の毒だが、アルテは案外東野圭吾にシンパシーを感じたりすると思う。嗚呼アイロニー。