クリストファー・プリースト「魔法」読了
(ハヤカワFT文庫 ISBN:4150203784)


「手紙は必ず届く」。ジャック・ラカンの言葉だそうだ。
http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20041210#p1
簡単にいえば、我々はどんなデタラメな文字列からもメッセージ(意味)を読み取ってしまうってことだと思う。
ゆえに神は顕在化は不要だ。連中は天候の変化や夢やバナナの葉っぱの裏側や草履の鼻緒が切れることなどにメッセージをしのばせるのだから。
「手紙は必ず届く」。けれども、これを偶然に必然(=運命)を見いだす類の転倒への警句と捉えるのは早計だろう。
山の噴火や茶柱細木数子の説教といった出来事解釈の多様性、それに対する驚きをラカンは表明したのだと思う。
繰り返すが世の中デタラメの連続である。これは小泉政権批判のレベルのハナシではない。にもかかわらず、居酒屋政談の憂さ晴らしにもくだんの<手紙>は潜む。
遅刻寸前猛ダッシュで角を曲がる瞬間、向こうから歩いてきた権ノ条恭祐クンとゴッツんコ。それがメガネっ娘、庄司幸(通称サチ)の恋の始まり、だったりする。
「手紙は必ず届く」。だから「新婚さんいらっしゃい」は実にラカン的な番組といえる。
出演する新婚さんはたいていお互い同士を<手紙>と認識しているが、桂三枝の役目は馴れ初めや「これだけは嫁はんに止めて貰いたいこと」(大体は不満と言いつつノロケだったりする)などを聞き、新婚さん当人達の<手紙>のデタラメさ、無根拠さに呆れてみせるというものだ。
お茶の間の我々は新婚さんの勘違いぶりに内心、思い当たりながら三枝・山瀬まみコンビに荷担し、テレビを見る。そして、三枝が椅子から転げ落ちるリアクションに笑ったりするわけだ。
クリストファー・プリーストの「魔法」の面白さは、怖い夢を友人に話したくて話したくて仕方ないときのあの感覚に似ている。
読後、「新婚さんいらっしゃい」が笑えない感じになる。なんだか知らんがおっかない。けれどそれはホラーな怖さではない。
端的にいえば、我々の世界と作中世界とは、<手紙>の在り方が全く違う。その違いさ加減に足下をすくわれる感じだ。ホント妙なハナシだなぁ。


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