阿部和重著「ニッポニアニッポン」読了
新潮文庫 ISBN:4101377243

「牛が窓から見ている」という慣用句。思いがけない吉報がズババーンと舞い込む様を指す。今、私が考えた。
阿部和重の「ニッポニアニッポン」は、まさに、牛が窓から見ているような読書的な幸運が詰まった小説だ。奇跡といっても良い。
人生のうちで最もカッコワルいのは、中学生時代だと暗黙の内に信じている。しかしそれはウソだ。人生すべてがカッコワルい。なぜなら、中学生時代の我々は今の我々と地続きにあるのだから。
それが「ニッポニアニッポン」のメッセージだ。私たちは、中学時分の己の姿を相対化、客観化し、「カッコワルかったなぁ」と照れてみせる。しかし、それは己が中学時分のあのカッコワルさを今や「卒業」出来たと錯誤しているために可能な逆立ちでしかない。つまり、その逆立ち的欺瞞に満ちた客観化こそ、自意識のなせる業なのだ。
他人の言動や世の中の出来事などすべてを自己流に解釈していた思春期のへなちょこ行動と今のその逆立ちは根本的には同じだ。
だから、「ニッポニアニッポン」は天皇制やひきこもりをテーマとして採用したのではない。また、ストーカーを正当化する分厚い思春期の自意識も小説的道具立てでしかない。
主人公、鴇谷春生は佐渡へ赴く。トキ、学名ニッポニアニッポンはその名ゆえに、繁殖が国家的プロジェクト化されている。トキのツガイがそうした環境で繁殖にいそしんでいる姿は野性からほど遠く、堕落した家畜でしかない。ゆえに、トキたちを「解放」する。
彼の妄想を嗤うの容易い。たしかに春生の行動は馬鹿馬鹿しい。けれどその行動が切り開いた風景はなんと表現すべきか?逆立ちして自分を誤魔化してる場合ではない。
阿部和重。彼はまさに猫に股がるべき作家だ。「猫に股がる」。今、私が考えた慣用表現だ。意味は(以下省略)。


ニッポニアニッポン
阿部 和重

新潮社
2004-07
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