○ダニエル・ウォレス著「西瓜王」(河出書房新社 ISBN:4309204104

アメリカ南部の街で
18年前に事件が起きた。
生まれてすぐの
ぼくをおいて死んだ母と、
まだ見ぬ父にかかわる事件が。
ルーツを探して訪れたぼくに、
町の人びとが話してくれる。
選ばれた女に童貞を捧げ、
豊かな実りをもたらすという
伝説のスイカ王のお話をー。


己の出生の秘密を探る旅。母親が死に、自分が生まれたアシュランドの町。なんら込み入った手続きもなく、町の人々は母親についての思いでを語ってくれる。第一章は、息子が採集した町の人々の語る母親についての各々の思い出話と西瓜祭のこと。柏木ハルコの「花園メリーゴーランドアメリカ南部版という風情。
トーマス・ライダーの出生の秘密を探る旅に寄り添いながら、アシュランドの手の施しようのない時間の止まり具合、退屈な日常を見聞することは、なぜか心地よい。人より牛が多いとか、コンビニが一軒もないとか、信号が一機しかない等、ド田舎状態を形容し、それを「売り」に町の観光を活性をしようという発想がアシュランドには欠けている。田舎としてさえも認識されないアシュランド。西瓜祭を失った町。
第二章は祖父の話。トーマス・ライダーが語る祖父の思い出は祖父のほら話。
ダニエル・ウォレスはけっして巧い作家ではないと思う。ただ、ほら話はかなり達者。以下158頁より部分引用。

「昔から、誰もがコウノトリの話に惑わされてきた。あれがいかんのだ」祖父はいった。「理解に苦しむよ。コウノトリが赤ん坊を運ぶなんて、およそ考えられないじゃないか。たとえばだな。おまえを運んできたのは、ハクトウワシだ。ある朝ここに舞い降りてーそれが力強く優雅で、立派だった。おまえを落としたの場所はソファの上ー豪華だろう。

柏木ハルコアメリカ南部とほら話の魅惑の合体!
ティムバートン監督で映画化されたらしいウォレスの「ビック・フィシュ」(ISBN:4309203353)も読んでみようかな。