○小林晋一郎著「バルタン星人はなぜ美しいのか 形態怪獣論<ウルトラ>編」
朝日ソノラマ ISBN:4275036745)

私は怪獣を見ていただろうか。一読フトそういう疑念が胸を過った。怪獣について一家言を自認しながら私が見ていたのは、怪獣そのものではなく怪獣の背景、怪獣の「物語」ではなかったか。
恐竜戦車、キングザウルス3世、キングジョー。それらは私の好きな怪獣たち。カッコイイと心底ほれた造形たちのはずだった。本書において小林氏の怜悧な審美眼は私の愛したそれらのうち二頭は一刀両断だ。
けれどちっちとも嫌でない。ある種の清々しさすら感じる。おそらくそれは、造形美という観点から怪獣を眺めるその姿勢をストイックなまでに貫く小林氏の眼差しに起因する。たしかにウルトラセブン期を語る氏の筆致は水を得た魚のごとく軽妙軽快で、楽しさに溢れている。けれど成田亨のデザインのみで怪獣造形を語るようなマニア的な頑迷ささは微塵もない。
怪獣を「物語」から切り離し、そのフォルム、デザインを吟味する。「物語」とは、怪獣が出現したお話内容ばなりでなく、怪獣につての視聴者が抱える思い出も含まれる。突き抜けたクールさ、小林氏のその姿勢になぜかウルトラマンがダブって見える。「物語」から怪獣を救出せんとするその勇姿に。