片岡義男著「日本語の外へ」(角川文庫 ISBN:4041371945
写真などを評価する場合、「ヌケがいい」という表現がある。
私見では、客観的に商品としての資質を備えているという意味だと解している。
もうかれこれ3年ほど義男につきあっているが、彼がいったい何をやりたいのか皆目見当がつかない。しかしただ一点いえることは、彼は実にヌケのよい文章家であることだ。本書が、その極意が日本語の外へ出る、バイリンガル思考の賜だという内容なら、私はそう義男に手を焼かないだろう。まったく違う。「日本語の外へ」はそんな思考のパラダイムシフトを促すような自己啓発本ではない。
かいつまんでいえば、資本主義グローバル化には善し悪しがあるということが書いている。そして、義男は、悪い部分、悪くなっていく趨勢に義男なりに心を痛めているようだ。義男の絶望の書。だから「日本語の外へ」はそういう側面を持つ。しかし、義男は絶望しているばかりではない。
絶望の船底から思いっきり明るい声で「おはようございます」と礼儀正しいく挨拶してくるのが義男の義男たるゆえんなのだ。
片岡義男、おまえはいったいなんなんだ!


日本語の外へ
片岡 義男

角川書店
2003-09
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星野伸之著「真っ向勝負のスローカーブ」(新潮新書 ISBN:4106100169

新潮新書といえば世間的には「バカの壁」だろうが、私は本書を強く推したい。
球種は120キロ台のストレートと90キロのカーブ。
なんで星野はプロで通用したのか?。卓抜した投球術か?データを駆使したインサイドワークか?
否、己自身を突き放して観察できる冷静な視点こそ、星野の真骨頂だ。本書に漂うユーモアも冷徹な自己分析が突き抜けた効果だと思う。こういう人になりたい。

金森修「ベクルソン」(NHK出版 ISBN:4140093080
世の中にはいろんなことを考えている人がいてはるなぁ。「個性的」とか「オリジナル」とかゆー言葉がアホらしゅうなってくるわ。
なんやねんっ、純粋持続って。僕のなかにある?ベクルソンのおっさん、アホちゃう?

仲正昌樹著「「不自由」論」(ちくま新書 ISBN:4480061320
人間になるとは不自由なことなんですよ、それだけが言いたい。けれで、徹底的に(敵の)予想されうる反論をつぶしておこう。
かくして、やけに重装備なパワーショベルで子供のつくった砂山をこわす風に「「不自由」論」は仕上がった。パワーショベルの運転も「人間」がやるべきだ。


川本三郎「銀幕の東京」(中公新書 ISBN:4121014774)
日本人から一生懸命さがなくなったとマレーシアのマハティール氏がぼやいておられるが、そりゃ昔はみんな貧乏だったもんと反論したい。

渋谷の恋文横丁の謂われは、そこに恋文屋があったからだそう。戦後のどさくさ、まさに日本中が貧乏だらけだった時代。恋文屋とは英文手紙の代筆業。
米兵相手の女が本国に帰国した自分の手紙を出したいとき、恋文屋が代りに書いてやるわけだ。ちなみに手紙のほとんどは金の無心だったとか。
その恋文屋をモチーフにした、「恋文」という映画を是非観たい。若者の街、渋谷。その渋谷の青春時代が「恋文」に映っているはずだから。


5加藤裕子著「食べるアメリカ人」(大修館 ISBN:4469244791
本書が出たのは、「バカでマヌケなアメリカ白人」が大当たりで、その追随本が何冊かでた時期だった。本書もそんな本の一冊かと思ったが、全然違った。サプリメントしか食べない人。ベジタタリアンなんだけど、お砂糖たっぷりのお菓子にためらいなくパクつく。寿司好きアメリカ人の「寿司」観等など、食文化トピックを筆者はどちらに与すことなく書いている。
アメリカ人はバカだ」、「アメリカ人は味がわかってない」と言いつつ、月見バーガーを食うのは甚だかっこわるいな。


永井良和・橋爪伸也著「南海ホークスがあったころ」(紀伊国屋書店 ISBN:431400947)
私が中学のころ、バンビというあだ名のピッチャーが南海にいた。確か彼は特製のグラブを用意し、左右どちらからでも投げるだの。一軍にあがることはなく、引退した。ドカベン香川のサードコンバートっていうのもやってた。こういうキワモノの話題作りがマイナー好きな俺的にかなりツボだった。
本書を読んで、記憶のなかにある南海の意味不明の宣伝活動の意味がようやくわかった気がする。おそらく、南海首脳陣の目指した野球興行のスタイルは巨人的、球界の盟主的なるものと全く相反するものを志向していたのだ。スローライフなんて言葉を輸入する前に自分らの歴史を振り返るべきなのだ。何が語りつがれ、何が語られずに忘れさられたかを。


7木下是雄著「レポートの組み立て方」(ちくま学芸文庫 ISBN:4480081216
文書とは何かを伝えるために書かれる。何かを伝えるてために書くだけなら容易い。難しいのは、伝達の目的を損なわず、過不足なく書くことだ。過不足なく伝達する文書作成術を世間に普及させるために本書は書かれた。クール。


高田崇史著「式の密室」(講談社ノベルス ISBN:406182229)
QEDシリーズにハマった。
まだ続くであろうが、今刊行されているなかでは「式の密室」が良いと思う。
前田愛が「都市空間のなかの文学」(ちくま学芸文庫 ISBN:4480080147)で指摘したシャーロック・ホームズ明智小五郎をサポートする「少年探偵」たちの素性を思い出した。


10池田清彦著「さよならダーウィニズム」(講談社講談社メチエ ISBN:4062581205)
小泉義之との漫才がみたい。噛み合なさ具合を堪能するために。