宮脇俊三著「増補版 時刻表昭和史」(角川文庫 ISBN:4041598087

これは当たり。
鉄道蘊蓄エッセーでもなく、旅行記でもない。
宮脇が少年時代から好きだった鉄道のその変遷を自分の成長と重ね合わせて書いた、自伝エッセー。

昭和という時代は、鉄道とともにあった。
鉄道とは、有り体にいえば、輸送手段だ。
鉄道網の整備は、物と人が大量にそして大きく移動する時代の幕開けを意味した。
それは、おそらく出張で東奔西走するサラリーマン族と旅情を満喫する大衆を創出したのだろう。

宮脇のエッセーはそのまま列車である。
文章から浮かびあがるその情景は、後ろへ後ろへと飛ばされていく、さながら車窓からの眺めのようだ。猛スピードでないが軽快な調子が心地いい。
宮脇を得たことは、鉄道にとっても、私のような電車通勤人にとってもとても幸福なことだ。