川本三郎著「銀幕の東京」読了。
(中公新書 ISBN:4121014774)

むかしの映画を見ていると、「あのじじいが若いころこんな格好良かったのか!」とか「この人全然歳とらないねぇ、今と同じ」なんて思ったりすることがある。
また、今は年配の女優の、若かりし頃の溌剌とした様子に一目惚れするが、最近の彼女のテレビでの「大活躍」で淡い恋は破局を迎えたりする。

銀座、有楽町、上野、後楽園、渋谷、新宿。東京の街々もまた、銀幕のスター同様にその若かりし頃の溌剌とした姿を映画に留めている。
川本三郎には「君美わしく」(文春文庫 ISBN:4167641011)のという、往年の女優にインタビューした好著がある。本書は、往年の銀幕のスターを脇で支えた風景、東京の街々(物言わぬバイプレイヤーたち)の「インタビュー集」と言えるかもしれない。

ところで、「モダン」というカタカナ日本語には「現代的な」という意味に「郷愁」のニュアンスがおまけのように付随してくる。
往々にして、このテのおまけニュアンスは邪魔だったりする。
けれど「銀幕の東京」について語ろうと思う場合は例外。「銀幕の東京」で語られる東京の街々の変遷、佇まいはまさしく、「モダン」でしかないのだから。
最近連続して高田崇史QEDシリーズを読んでいたので、探偵役桑原崇の土地の歴史(地霊)=怨念まみれ観にやや食傷気味だった。
「銀幕の東京」で語られる東京の移り変わりは、地霊が怨念だけで成り立つのではないことを教えてくれる。
戦後、東京の街々が復興をとげていく姿が映画に映し出されている(それはそのまま日本と日本人の歩んできた道なのだ)ため、本書が語る東京の土地の歴史は基調は明るく、穏やかなエネルギーに満ちている。
地霊にも「モダン」がある。