高田里惠子「学歴・階級・軍隊 高学歴兵士たちの憂鬱な日常」読み中
(中央公論新社/中公新書 ISBN:9784121019554)


1885年に陸軍大学校教官に迎えられたドイツ人少佐メッケルは、ドイツのように高学歴のブルジョア階層出身者を率先して兵役につかせるべきだ、そうすれば、蔓延している、兵役を賤視するような風潮がなくなるはずだという忠告したのだそうだ。そして日本もそれを受け入れて改革に力を入れたという。17ページより引用。

しかし日本の高学歴者たちは、ドイツと違って兵役を済ませて予備役少尉になっておくことを男の名誉と捉える心性をついに持たなかった。

なぜか。何故高学歴者は兵役を賤視したのか?
本書は、「きけ わだつみの声」などの学徒戦死者の手記や生還した学徒兵たちの従軍時代の回想に散見される軍や庶民に対する「ゆがんだ表現」をつまみだし、学歴エリートのボコられて当然の傲慢さ、鈍感さを暴露する試み。旧制高校に憧れたらしい司馬遼太郎に読ませたかった一冊。
戦前の高学歴者がなぜ高学歴なのかといえば、母親たちに唯一与えられた栄達の道が、息子の立身出世だったからだ。女の社会進出は、富裕層でも未だ進んでいなかった。彼女たちは結婚して男子を産み、己の栄達を息子の出世に託した。
高学歴な息子たち。彼らのはエリートたる万能感がみなぎっていた。そして、そのプライドは天皇や国家、庶民に対しても発揮された。肉体的苦痛や血を流すなんて野蛮ははまっぴらだ。ぼくらは頭がいい。だから机シゴトで国家に貢献するよ。
つまり、彼らにとってエリートとはデスクワークを専らとするホワイトカラーのイメージだった。別の言い方をすれば、高学歴者らのエリート諸君は、ホワイトカラーとして国家に飼われることを望む程度のエリート像しか持てなかった。
結局戦前の高学歴者たが自任したエリートとは、母親が自慢の、試験得意型の秀才君でしかなかった。翼賛的な軍国主義に彼らが抵抗勢力たりえなかったのは、息子の立身出世を願う母親を裏切ることができなかったためだろう。戦時体制下、母親たちが望む息子の出世は、「学歴優秀者」から「勇敢な一兵卒」に切り替わっていた。。。
母親と旧制高校で培った自由主義的気風の間で葛藤する高学歴エリートたち。彼らの高邁な理想たる平和主義は、アクションをもって奪取するものでなく(そんなことしたら母さんが悲しむ!!)、内に秘められ希求の対象になった。
戦前戦中の高学歴者のこうした自分だけ平和主義は、戦後の護憲平和主義的な態度にも引き継がれていると思う。たとえば福島瑞穂的な言動は、ある種「きけわだつみの声」の反戦の声を後ろ盾にしつつ祈るがごとく護憲・平和を語る。
この独特な安全保障上の政策の提言もなくひたすら祈るという護憲という姿勢は、むしろ日米安保が可能ならしめた奇跡にみえる。ぼくは彼女に提案したい。仮にあなたが真に平和を希求するのなら、自衛隊の一隊員として演習訓練に参加するべきだ、と。それこそ文民統制じゃないか、と。
戦前戦中の高学歴者の平和主義なんてのも福島瑞穂と大差ない、覚悟のないものだったのだ。彼らもまた祈るがごとく平和を夢想したにすぎないのだ。こんな腰抜けエリートに国家の安寧が実現できるわけもなかった。二次大戦の無様な敗北は、学あるリーダーがその役割を果たさなかったためだったわけだ。
福島瑞穂をやり玉にあげたが、別に彼女や彼女の党だけが腰抜けなわけじゃない。松下政経塾で学び今や国会議員として活躍するニッポンの若きリーダーたちも戦前の高学歴者と同じアナむじなでないか。一触即発開戦というときに、連中が率先して自ら自衛隊服に袖をとおす気構えがあるだろうか?
未曾有の財政難の解決をはかるべく、国会議員の頭数を減らそうという動きもあるようだが、ぼくは反対だ。いざ鎌倉というとき、彼らニッポンのリーダーたちが率先して前線におもむくはずだ。そのための身分保障が必要なのだ。平時に国会にあり、有事に戦地へ立つ。それこそがエリートの宿命だ。国を率いる者の矜持はそこにある。
読売新聞主筆ナベツネこと渡邉恒雄。彼もまた終戦間際に高学歴な学徒兵だった。そして内務班でよく殴られたクチだったそうだ。田原総一朗のインタビューで、どういう理由で殴られるのかという質問に、彼は「東大だから殴られた」と応えているようだ。
ナベツネよ、全然勘違いだ。見当ハズレもはなはだしいぜ。東大エリートのお前が、率先してエリートたる模範を示すことなく、あるいは模範を示すためお回路不在に鈍感なまま、仲間内で民主主義や平和を夢想なんかしてるから殴られたのだ。



学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常 (中公新書 1955)
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