スティーブン・ピンカー「言語を生みだす本能」上・下読み中
(NHK出版/椋田直子(訳) ISBN:978414001740,ISBN:9784140017418)


先頃、教育再生懇談会ってとこが、遅くとも小学校3年生からの英語教育導入を政府に勧告したというニュースがあった(参照)。そんで、日本語すらままならない小学生風情に英語教育なんてちゃんちゃらおかしいぜ!というのが私のこのニュースに対する感想だった。
しかし、やっぱ子どものうちから習わせる方が覚えが良いというのが昨今の定説のようだ。元TBSアナウサーの木場弘子さんがそんなことをラジオで言っていた。よくは知らんが、木場さんここ最近教育評論家的なシゴトもされているようだ。
で、木場さん自身も英語教育の専門家に、日本語もままならない児童に英語が身に付くのかと訊いたそうだ。すると、その先生は、
日本ではそういう意見が根強いですね
とおっしゃったとか。
この木場さんのハナシがなんかひっかかって、たぶんこの本だ!と見当をつけ、スティーブン・ピンカー「言語を生みだす本能」を手にとった。ま、前から気になっていた本だったんだけど。やっと読む気になったというか。
ま、そんなわけで、まだ下巻の先っぽまでしか読んでないけども、たしかにこの本を読むと、「言語を学ぶなら、なるべく早いうち!」が鉄則だなあと痛いほど痛烈に痛感させられる。けど、やっぱ日本人だからね。英語が流暢にしゃべれてもあまり意味ないと思う。けど、英語より日本語教育こそ優先だ!なんて言うと、内田樹っぽいいからそれは控える(参照)。
著者スティーブン・ピンカーマサチューセッツ工科大の先生。本書は、認知科学および発達心理学の立場から、言語をしゃべるのは、ヒトの本能です説を語った啓蒙エッセー。
ピンカーによれば、ヒトが言語をしゃべることは、ツバメが飛んだり、マグロが泳いだり、フンコロガシが糞ころがしたりするのと同様に本能だという。
彼は脳のなかに心的言語があり、これが言語をしゃべる肝だと考える。本能というは、脳機能の意味。
しゃべるプログラムが組み込まれているなら、「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」とハクション大魔王風に派手に生まれてきてもよさそうだが、そんな赤ん坊は未だ生まれてない。
ピンカーによれば、ヒトの赤ん坊は、しゃべる本能は出来上がっているが、発声器官が未熟な段階で生まれてくるせいらしい。DELLのPC買ったが、起動音がしない。取り説よく読むと、スピーカ別売りだったみたいなハナシか。
つまり、赤ん坊は、生まれた環境の年輩者たちが発している音のつらなりに聞き耳をたて、それぞれの言語、チェコ語やアルピタン語や九州弁の音声差異に敏感な赤ん坊へと最適化してくのだ。別の言い方をすれば、歯並びや発声に対する息の吐き方、滑舌など発声器官の未熟さが、赤ん坊に赤ちゃん言葉をしゃべらせているということか。おかーたま、おかーたま、赤ちゃん言葉で話しかけるのは無意味でちゅよー。
移民の子どもたちは生まれた環境下の言語を覚える。親たちのが移住先の言葉が不得意でも、その不得意さは子ども世代は容易に乗り越える。ハワイ日系二世たちの英語が流暢さや表現力の点において、一世のカタコト英語より飛躍的に言語っぽいのはそのためなのだ。親世代の文法的な不備を赤ん坊の心的言語機能は補うのだ。
ちょっと前に山口謠司「日本語の奇跡」を読んだ。サンスクリット語のお経を中国語に翻訳したのは鳩魔羅什という人だったらしいが、著者の山口氏によれば、それは厳密に言うと翻訳じゃなく、漢字を表音文字として用いサンスクリット語の音を写した代物だったようだ。
で、ここで私が閃いたのは、
漢字って最初は表音文字だったのではないか?
ってこと。だから、鳩魔羅什が漢字を表音文字として駆使したのは、彼のバイリンガル的特性のためでなくそうする他方法がなかったからではないかと。つまり、南蛮渡来の宣教師たちがアルファベットで日本語の音を書き写したように、鳩魔羅什もまた普通にそうしたんじゃないかと思うのだ。それこそ漢字を宛て字で古事記万葉集を書きつづったように!
ちょっとした野次根性から、小学生の英語教育について調べるつもりで読んみたら、どエラいもんにぶちあたたった。ピンカーが提起する赤ん坊イメージは、ウロコばかり目ん玉ごと落としてかねない衝撃がある。いやービックリしたなぁ、もー。で、もっと早く読むべきだったなーとちょっと後悔もした。


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