佐野洋の創意工夫、バロック化する日本語。


ブックオフの100円棚で佐野洋の「相撲好きの女」を買う。タイトルに吉田戦車的な気配を感じたから。「白い刑事」シリーズという短編連作もの。
一読、文体のギクシャクに気づく。表題作の書き出し部分を引用。

その電話がかかって来たとき、東谷は妻の咲子と囲碁を打っていた。
と言っても、分厚い碁盤を挟んで、夫婦が正座対局していたわけではない。
居間の食事用のテーブルに、脚のない薄い碁盤を置いた形、つまり二人とも椅子に腰かけていた。


東谷家は娘が嫁ぎ、また二人きりにもどった夫婦という設定。東谷が女房相手に碁を打つ場面は、たぶん作者の佐野が碁打ちが趣味の女を登場させたかったからだ。要は囲碁が趣味の東谷咲子は、表題でもある相撲好きな女の露払いとして冒頭に登場するのだ。とはいうものの、女の風変わりな趣味が囲碁である必然性はない。だから、咲子の趣味が囲碁であるべき別の意図が作者佐野にあったはずだ。
おそらく佐野は、この短編連作全体の表すメタファーとして囲碁を冒頭に用意したのだと思う。
大変周到な小説作法が垣間みれる佐野短編だが、それがために文章に亀裂をおこさせている。ふつうこうしたギクシャクは小説として欠点とみなされるだろうが、片岡義男好きの俺はギクシャク大歓迎だ。



相撲好きの女―白い刑事
相撲好きの女―白い刑事佐野 洋

中央公論社 1995-03
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