○喜八マジック炸裂、小林桂樹ブーム到来の予感。


岡本喜八監督「江分利満氏の優雅な生活」をみた。
バレーボールやバトミントン、コーラス隊。会社屋上で昼休みを同好サークルで謳歌する社員たちの群れ。宣伝部につとめる江分利(小林桂樹)はその楽しそうな輪から外れ、ひとりで面白くなさそうな顔をしている。
江分利は昼休みの余暇も仕事にも身が入らない。唯一の楽しみは終業後のもっぱら酒。だが、これも一緒に飲む奴をつかまえるのにひと苦労。それもそのはず、彼の酒はあまり行儀のいいものでないからだ。それを知ってる社内の者は彼の誘いを敬遠するのが常なのだ。
要領が悪い野暮天でサラリーマン不適合者。
江分利の自己分析は己のアフター5の人望のなさを憂いたものだろうが、始終飲み歩いてクダをまきウサをはらしてるのだから、これじゃ「人望」は集まらない。
ところが、ある日酒場で意気投合した見知らぬ男女が実は雑誌の編集者で、その縁で映画同タイトルの小説を書く。
直木賞受賞すると、社内の彼に対するぐうたら社員という評価は一変、一躍社内のアイドルとなる。一緒に酒場に繰り出す連中も出てくる。しかし酔った江分利はハナシも説教くさく、長っ尻で相変わらず最悪の人格が露呈する。
おそらく、小説を書かせる江分利の内なるものは、江分利を酒でクダをまかせるものと実は同じものなのだ。それは戦争景気で羽振りよく暮らした子供時代の自分ををゆるせない気分だと思う。江分利は戦争景気でノリノリだった父親はせめない。ただ、父親のようにちょっと景気がいいから言ってウカれるようなことを自分に許せない。昼休みを謳歌する輪に加われないのもそのためだろう。
エンディングで冒頭同様、余暇サークルの屋上昼休みシーン。ひとり面白くない顔でたたずむ江分利。ひとときの「ぐうたら社員だが小説に才のある出来る男」という彼の株は下落し、「小説も書くぐうたら社員」に落ち着いたわけだ。
スットップモーションの職場を背景に江分利が自己分析的自己紹介をするシーンが印象的。周囲が止まり、江分利だけが中央で動く。昼休みの屋上シーンと対局的な構成。ここで、江分利は音痴な歌を披露する。才覚ひとつでが現状を打開することなく、結局もとの居場所に戻るという結末は、美声をきかせた植木等の当たり役無責任男シリーズの嫌なパロディーなのかもしれない。喜八、サエてるなあ。
原作の江分利は十中八九山口瞳が客観視した自分の姿だろう。その屈折した性格を体現した小林桂樹が素晴らしい。桂樹の映画をもっと見たい。


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