宇月原晴明「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」読了
(新潮社 ISBN:9784101309316)



かつて、「信長の野望」に没頭した時期があった。
三度の飯より戦国時代好きの俺にとって
「信長でプレイする」
なんてのは金輪際ありえない選択だった。たいがい波多野とか毛利とか竜造寺とか結城とか超メジャーではないがご当地英雄な武将でもっぱらプレイした。俺の田舎沖縄に戦国武将がいないのだからしょーがない。
当然信長はファミコン側が受け持つことになる。ファミコン信長のすごさは、ゲーム開始直後から開始される電光石火の領土拡大だった。
けれど何度かプレイしてしているうちにファミコン信長の領土拡大が途中でガス欠になることに気づいた。またファミコン信長は長期的な展望を持たずに一心不乱に領土拡張するため、攻め込まれると簡単に負けてしまう脆さをみせた。

「生き急いでいる」
俺は、ファミコンが運転する信長の威勢のいい攻めっぷりにそう呟いたものだ。半ばあきれて、そして半ば嫉妬まじりに。

「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」は、合戦に明け暮れた「信長の野望」没入時代に引き戻した。
実際の信長も己の運命を知っていたのか疾風のように人生を疾駆した。
強烈なカリスマ性を有し、稀代の統率者だった信長。その言動は言われるほど合理的でもないし、かといって破れかぶれでもない。一体全体信長を突き動かしていたものは何だったのか?
「梅雨将軍信長」の新田次郎は、単に運がよかっただけだと言いたげだ。鹿島茂なら、そう。例のドーダ理論で解くやもしれない。
しかし、ドーダ理論など所詮現代人の行動・思考様式を古えの世代にまで引き伸ばそうという試みだ。西郷どん中江兆民はともかく、中世に生きた信長にドーダを導入することは、かえって信長の実像を見失いかねない。

信長は両性具有の男女だった!
素っ頓狂な説だ。大風呂敷を広げるにもほどがある。おっぱいがある信長って何だ!
信長は両性具有の男女だった!!
まあ、冷静に考えればそんなことはありえない。けれど、だからといって「信長は合理主義者だった」じゃ、ドーダ理論と五十歩百歩だ。
合理主義者=信長。
そんな見方じゃ延暦寺を焼き払ったったことも、裏切った浅野や朝倉の髑髏を盃に酒を呑んだこともぜんぜん意味が分からない。
信長は両性具有の男女だった!
宇月原は、その素っ頓狂な着想一本で転がっていこうって魂胆ではない。そうじゃなくて、宇月原は壮大なトンデモ史観を脳内に飼い、これを今日吐き出したのがたまたま小説の形をとったにすぎないのだ。つまり両性具有の信長とは、宇月原トンデモ史観のほんの序の口なのだ。
澁澤龍彦が生きていたら激賞しただろう。三島由紀夫が読んだら間違いなく三島賞を呉れただろう。奇天烈着想な饒舌文体、仮に漫画化するなら荒木飛呂彦先生をおいて他ない。
俺は続編「聚楽 太閤の錬金窟」を買いに本屋へ走るっ!




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巻末参考文献でコレが挙がっていた。やっぱり!