堀田力「壁を破って進め〈上〉―私記ロッキード事件」読み中
講談社文庫 ISBN:4062734397

著者の堀田力は弁護士。世間的には高齢者の社会参画などをサポートするさわやか福祉財団の人とイメージされているだろう。本屋的には「おごるな上司!」の著者と記憶される。
検察時代彼はロッキード事件の専従検事で、「壁を破って〜」はその当時を回顧したもの。
検事というとおっかないイメージを持つ昨今だが、いわゆる名文、名調子を潔く排したその文章はきわめて平易で、構えて読むと腰砕けになる。堀田の人柄の反映なのか。

堀田がロッキード事件にかかわる発端は法務省時代。彼は特使してアメリカへ派遣され、米国当局が押さえたボーイング社から日本の政界に流れた金の流れのに関するレポートの譲渡手続きにあたったことに始まる。当時の日本の状況は、アメリカの企業を巻き込んでの大きな汚職事件の気配に国民的憤りが爆発しており、こうした世論を後押しに国会において、米国当局の例のレポートの国会での公開を求める動きが加速する時期だったようだ。
党内的には基盤が弱い当時の総理三木武夫はこの疑惑をテコに派閥的な巻き返しを謀ろうという気分あったようだ。つまり角栄の力をそいでしまおうという魂胆が。
堀田ら検察サイドからするれば、国会でのレポート公開は事件捜査するにあたって、敵に手の内を明かすようなものであり、だから国会でのレポートの公開はどうしても避けたい事柄であるわけだ。
堀田が安原法務省刑事局長に随行し、レポートよこせの三木へとレポートの扱いついて説明する場面、101ページより引用。

「しかし、きみらが貰って責任を持って起訴するんだろうね」
これはつらい質問である。検察庁はなんとしてもがんばってもららわねばならないが、資料
中身もわからず、コーチャンの供述もとれる保証もないのに、起訴など言われるとはるか先の夢のような感じ、約束などできるはずもない。
安原局長は黙っている。不機嫌な人には余計なことは言わないほうがよい。
(中略)
「起訴はいつできる?」
答えない。
「逮捕すれば、名前は出せるだろう?」
安原局長が私を見た。そこは詰めてないが、腹を決めてうなずいた。
「出てしまうでしょう」と局長が答えた。
「資料が出たら、すぐ逮捕できるのじゃないか」
ろくな資料がないという推測は局長に話してある。
「そんなすごい資料があるでしょうか」という、局長を三木総理は少し考えるふうに見ていたが、少し猫なで声になって
「しかし、資料は稲葉君に報告するのだろうね」
「いや、いたしません」
三木総理はきっとなった。
検察庁は、私にも報告しません。総理ご承知のとおり、法務省は具体的事件については検察を指揮できません」

安原は、三木にレポートがさほど政争の道具とし価値が低い可能性があることと、それが田中サイドに絶対漏れることがないことを「説明」に出向いたということだろう。
そして、三木はレポートの公開によるメリットと公開されないレポートの効果を天秤に架けた。そして公開にこだわることもないと打算したということか。
検事的な厳格さが微塵もない平易文体は一見、堀田自身が三木の腹をまったく感知してない風だ。けれど、やはりこの平易文体は一種のフェイクだと思う。


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壁を破って進め〈上〉―私記ロッキード事件
壁を破って進め〈上〉―私記ロッキード事件堀田 力

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