稲葉振一郎「「資本」論」
ちくま新書 ISBN:4480062645


銀河鉄道999」の星野鉄郎は機械の身体を求め旅にでるわけだが、彼が機械の体を欲しがるわけは一体なんだったろうとふと考えた。
永遠の命を希求した?というより、機械の身体を手に入れた連中の方がそうでない自分らよりよい暮らしをしており、立身出世には機械の身体が不可欠だと鉄郎が踏んだせいだったと思う。

「「資本」論」において、もっとも刺激的な箇所は工場や土地などの資本を持たない賃金労働者の身体を所有財産と見立てるという立場をとっている点だと思う。
財産を土地と言い換えるともっと面白い。土地が家畜を飼ったり、作物を栽培するなどしてその果実を取得できるように、賃金労働者の身体も果実としての賃金を産むということか。
だから、サイボーグ化やドーピングなどによ身体改造もそれが当人の所有するモノであるゆえに、ある程度認めざるをえないと稲葉は考えているようだ。だからと言って機械の身体万歳!ではなく、その際の「ある程度」の社会的コンセンサスとルールを整備していくことが、重要であると見ているようだ。別の言い方をすれば、日進月歩のテクノロジーによって人体改造が廉価になる際に、当人の意思を確認する法的なプロセスこそがセイフティネットたりうるということだろう。

鉄郎に話をもどせば、結局彼は自分の手に届く機械の身体が自分の身体というよりも、巨大なシステムの部品でしかないことに気づき生身の体に留まった。
鉄郎レベルの無産者においても望むならばアクセス可能であり、思いとどまるという選択判断を下支えするものが、セイフティネットだということか。
まだっるっこい書きっぷりのせいで大変読むのに難渋したが、通して読み終えれば、そのまだるっこさの行間から著者の「伝えたい」感がありありとわかる。最初はしんどいが、わからんと投げ出さず最後まで順々に読み通すと吉。当たり前か。


「資本」論
4480062645稲葉 振一郎

筑摩書房 2005-09-06
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