山田風太郎山田風太郎忍法帖短篇全集 1 かげろう忍法帖」読了
(ちくま文庫/日下三蔵ISBN:4480039511)



司馬遼太郎は、新聞記者=忍者説を唱える。それは取材対象者は味方ではないという見地に立っての職業人的物言いのように思う。
取材は取材対象者にとって利益になる場合もあれば、そうでない場合もある。
記者は彼らの利する事柄のみを記事にするわけにはいかないから、取材対象者と記者の間には心理戦レベルの攻防がある。つまり、相手の味方の振りをして近づき、側近中の側近しか知り得ない「事の真相」をスッパ抜くことが新聞記者たるものの職務であると司馬は自負していたはず。
だから戦国時代、情報収集能力をもって当人たちの居場所を勝ち得た忍者に司馬遼太郎が新聞記者と同じニオイを嗅いでいたとしても不思議ではない。
その意味で司馬遼の描く忍者は現代風の職業倫理と誇りをもっているように思う。
もっと言えば、司馬遼の小説とは士農工商のそれぞれの職業倫理のぶつかり合う、階級闘争小説であったと見るべきかもしれない。
いずれにしても司馬遼がサンケイ新聞社という会社でなく新聞記者という職種に強いプライドを抱いていたに違いない。
そして、司馬遼の忍者は善くも悪くも彼の職業観に縛られている。余話であるが、内田樹が「期間限定の思想」と言うとき、私は真っ先にに司馬遼のこの職業倫理観を思い浮かべる。
では、山田風太郎の忍者はどんな忍者か?
一言でいえば、忍法帖短篇は忍法小話だ。ダウンタウン松本風に言えば「忍者版スベラナイ話」。
忍法は奇想天外エログロナンセンスが炸裂し、読者の脳内に鮮烈な映像がストリーミングされる。
忍者たちはわりとあっけなく死ぬ。それは殉職などではない。ただ単に死ぬ。
山風の描く忍者たちはどれも滑稽で同時に切ない。
人は強いとメッセージしたのが司馬遼で、人はやはり笑えるくらい弱いとしたのが山風ではないか。
私は風太郎を支持する。


山田風太郎忍法帖短篇全集 1 かげろう忍法帖
4480039511山田 風太郎 日下 三蔵

筑摩書房 2004-04-08
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