関川夏央「やむにやまれず」
講談社文庫 ISBN:4062748398


自分はそうすることは好まなかったけれども、そのときそうする他術がなかった、というような昔バナシ。
アレは不可抗力で俺にその行動の責任はない、という当人の抗弁がうっすらとある。
同時に、その不可抗力に付き従っただけの当時の自分のその選択を「人生の転機」と積極的に振り返っているフシもある。
そんなハナシを聞かされている者が、一体全体どっちなんだと内心ツッコミを入れてることなどハナシ手はまったく頓着してないようだから始末が悪い。相当悪い。
世代論に対する否定的な見解はそれが紋切り型だ、ということだと思う。
けれどいわゆる団塊の世代には、やはり「団塊の世代」と括りたくなる!紋切りめいた行動形式があると思う。

関川夏央。1949年生まれのこの漫画原作者北朝鮮専門家兼作家は、ようするに団塊の世代の属する。
「やむにやまれず」は、中年日常をモチーフにした短編連作。
高校時代の友人からの久々の電話。選挙の出馬がらみの、同窓会に行く行かないの相談。
非常勤講師として教壇に立ち、学生に任侠映画について解説する。
空港で昔芝居で一緒だった知人と30年振りに出くわす。
店内でちょっとした飲食ができるスペースのあるコンビニで夜中に新聞を読む。
作中の中年男はふとした契機から往時の自分とその時代の気分も反芻する。
読者は、間接的に作中の団塊世代中年の昔バナシに付き合う形となる。強運自慢や自己弁護のハラスメントに悩まされる感はない。
態度やものの見方、反応において、一塊にみられがちなアノ世代。実際作中の男はものの見事な典型であるが、その見事さは大袈裟化するのでなく、等身大に描いてみせたことだろう。
いまだ世代論が持てはやされ、中傷されるる昨今、関川は、巷にあふれる紋切りに己を重ね合わせて、間をおいて引き剥がした。
そうそう、俺は団塊の世代だから、あのときはやっぱああするほか仕方なかったんだよ・・・。誰が団塊の世代やねん!という、のりツッコミ。
「やむにやまれず」は、その意味において関川の世間への反抗がある。いしい ひさいちの四コマも良い。


やむにやまれず
4062748398関川 夏央

講談社 2004-08
売り上げランキング : 94,781

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
中年シングル生活
昭和が明るかった頃
石ころだって役に立つ
昭和時代回想
本よみの虫干し?日本の近代文学再読