yasulog2005-05-29

林丈二「東京を騒がせた動物たち」
(大和書房 ISBN:447939107X)

林丈二イラストレーター。
路上観察学会のひとり。赤瀬川ら会の人たちから「神さま」呼ばれてるそうだ。たしかになんというか人間ばなれした風情がある。もしかすると南伸坊あたりが、歩く路上物体として林を会に迎えてのではないだろうか。
「東京を騒がせた動物たち」は、明治期の新聞に登場する動物にまつわる記事を丹念に追った労作である。発案から15年を費やしたというが、林がホントに苦労したかは分からない。
雷獣という動物が登場する。落雷とともに天から降ってくる獣だそうだが、捕縛され「雷獣」の風体は曖昧模糊としている。ヤマアラシっぽい場合もあれば、らっこの赤ちゃん風もあるという。
突然両前脚を通りすがりの女の両肩にのせ、着物の袷からクビをツッコミ、乳を噛んだ馬の記事がある。
狐や狸は人を化かすという社会通念があり、狐狸の事件において新聞記事は、万物の霊長である人間が畜生にダマされるのは弛んでいる証拠と箴言を忘れない。
牛や馬、雀、カラス、鹿、イタチ、狐、狸、ラッコ、亀、ウミガメ等々。明治期の東京には、とにかく雑多な動物が飼われたいたり、出没しかか分かる。
出没点とその道程を地図に示した。たしかに骨が折れる仕事だったろうがそれは林の根気ゆえでなく、林丈二という男の体内に流れる時間のなせる業のように思う。
家畜の類は都市化につれていなくなった。車を引いた牛や馬もその役目を機械に譲り退場した。
志ん生は「三枚起請」の枕で近頃はカラスもずいぶん減ったねと言い、その息子志ん朝はおなじハナシの枕でこの頃カラス威勢がイイというふうなこと言っている。近頃カラスはまた衰亡の一途にあり、鳩がのしてきている。
東京を騒がす動物も時代によって栄枯盛衰があるということか。ただ、動物にまつわる迷信、吉兆信仰を怖がったり喜んだりするのんきな連中はほぼ姿を消した。


参照:荒川の人 - 林丈二
http://www.tcn-catv.ne.jp/~acc/hito/hito/124_hayashi_joji.html


東京を騒がせた動物たち
447939107X林 丈二

大和書房 2004-03
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