森まゆみ彰義隊遺聞」買う。
(新潮社 ISBN:410410003X
タモリ司会の往年のバラエティ番組「今夜は最高!」風に「いまのご気分は?」と問われたら、「幕末気分です」と即答したい。
司馬遼ブームの私だが、野口武彦「幕末気分」(ISBN:4062750384)がその契機だった。
「幕末気分」は幕末に材をとった歴史エッセー集。収録のエッセーはどれもスコブル面白い。なかでも「上野モンマルトル1868?世界史から見た彰義隊」という一篇は完全に私の琴線ど真ん中だった。
烏合の衆。なるほど彰義隊は所詮寄せ集めに過ぎない。けれど彼らが能天気な馬鹿やヒロイックに酔うトンマとするのは早計に思う。
多少脱線するが、司馬遼の短編「鬼謀の人」(「人斬り以蔵」収録)は、この上野戦争を官軍側指揮官大村益次郎側から書いたもの。司馬遼は半日で決着をみたその要因を軍制の差にもとめたのだと思う。つまり、西洋式の戦術に通暁していた大村の指揮にもとづく官軍に対して、彰義隊はそれぞれの「男の意地」で闘った、と。
おそらく、その見解は近代日本のあゆみという俯瞰的な視点で眺めるなら、妥当かもしれない。けれど「上野モンマルトル1868?世界史から見た彰義隊」を読むにつけ、ふとそうした合理では割り切れない気分が私の胸中に体育座りで佇むのだ。
野口は、奥詰銃隊上がりの隊員寺沢正明の「一生一話」をひき、榎本武揚の開陽艦に、とことんまで徳川家に肩入れすると腹をきめたフランス人仕官、ブリューネとカズーヌフが搭乗していたと報告する。「上野モンマルトル1868?世界史から見た彰義隊」は、その外人の侠気な言葉で締めくくられているが、あえてここでは引用かず、奇特なラストサムライの声を聞くにつれ、西洋式戦争の化身と描かれた司馬遼の大村像は、近代という精神を捉える際重要な何をツカミ損ねている印象を持つと私的な感想をつぶやくにとどめておく。

彰義隊遺聞」16ページより引用。

江戸町人と伊達藩の下っ端士族の祖先をもつ私としては、この薩長を中心とする軍を本当は官軍と呼びたくない。幕府側の軍隊を東軍、これに対するに西軍がよいと思うが、それではまるで関ヶ原なってしまう。

ミニコミおばさん森まゆみをして侠気を動かされる彰義隊とは一体なんだったか。果たしてそれを合理で片づけて良かったか。
森が拾いあつめた隊にまつわる言い伝えを水先案内に隊員めいめいの胸中に去来した幕末気分を私なりにさぐってみたい。


彰義隊遺聞
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参照:タモリ総合ページ
http://www.246.ne.jp/~jun-nara/TAMORI.html
木下直之
http://book.asahi.com/review/TKY200503120402.html