宮崎駿ハウルの動く城

婆さん二人による一人の男を巡る争奪戦がこの映画の基調にある。
一方の婆さんは男の心臓を欲しがり、もう一方は忠誠を要求する。だから、荒地の魔女は強欲の化身であり、彼女は老齢であるがゆえに、<若さ>を渇望する。彼女の魔法は老人のしたたかな知恵の意味か。荒地の魔女の老成への嫌悪は、ソフィーを九十歳の婆さんに変えてしまう意地悪魔法からも察せられる。
婆さん的な悪知恵ではサリマンの方が数段上をいっている。その魔法を国政に活かすことで権力の中枢にある彼女にとって、今回の隣国との戦争は茶番、ハウルに忠誠を誓わせるための手段でしかない。
ただ、婆さん連中はその強欲ゆえに、ハウルの正体を誤解している。ハウルの凶暴さを「魔に魅せられたせい」風の説明で済ませているうちは、ハウルの影しか見えていないということだ。
ソフィーは九十歳の婆さんになって決意した。うじうじした気持ちに踏ん切りをつけた。若さへ漠然とした期待や未来(=王子様)への希求を断念し、自らの困難を解決する旅にでた。
婆さんになることで救われる魂もあるわけだ。ソフィーは二つの魂を救った。
漠然とした未来夢想より現状を見据える諦念の勝利か。