○棚とキーワード その2

ここでいうキーワードとは、基本的にジャンル版元ごとで流行しているそれを指す。
ビジネス書版元であれば、「V字回復」というのがそうだったし、利殖啓蒙書(?)の「金持ち」もそうだった。思想・哲学の版元的には「グローバリゼーション」や「地域通貨」、ちょっと前には「ポストコロニアル」ていうのもあった。最近では「食育」がそうだ。
ほかにも「編集」や「○○力」、「○○セラピー」等、ジャンルを串刺しするキーワードもある。
「食育」とは、教育書系版元のキーワードで、味覚や食材、箸や椀などの食器といった食べることをめぐる素養、文化を引き継ぐことの大切さ、それについての学校の役割という文脈で語られる。
学校は勉学の場であると同時に社会で生きていくための協調性や規律、柔軟さを訓練する場である。
つまり、そうした使命を帯びた学校や教師が、食べるという生活の基本要素を給食システム(給食のおばさんや給食センター)に丸投げ代行させるほどに関心払ってこなかったことへの反省や考察として、「食育」というキーワードは注目されているのだと思う。だから「食育」の提言書は教育書コーナーの片隅にある。
この片隅にある現状はとても残念に思う。なぜなら、「食育」には教育書版元が想定してる読者よりももっと多くの読者を獲得できる素地があると思うからだ。私の本屋としてのゴーストがそうささやくのだ。というか、現役の本屋なら口に出さないまでも「食育」を気に留めているだろうというのが私の本屋観だ。
残念ながら「食育」本の現状の書き手は、教育系を越えてアピールできるほどの構想力、あるいはハッタリをかませていない。逆説的にいうなら、教育書版元以外から「食育」本が出たとき、棚担当者は無理してでも大車輪な展開をすべきだ。教育書版元には大向こうの読者を想像だにしない現状であなたが教育書担当者で潜在的ニーズをひしひしと感じているなら、「食育」の今後はあなたの胸三寸にある。

○参考リンク
◇コンビニグルメ研究所 学校給食を軸とした、ニッポン食文化変遷史 目次
http://d.hatena.ne.jp/sujaku/20040001

◇コンビニグルメ研究所 戦後文学としての藤田田
http://d.hatena.ne.jp/sujaku/20040320

食べ物新日本奇行
http://weekend.nikkei.co.jp/kiko/20021122s85bm000_22.html

○俺的食育周辺本
◇伏木 亨 「日本全国マヨネーズ中毒」
講談社 ISBN:4062683873

◇ 遠藤 哲夫「 汁かけめし快食學 」
ちくま文庫 ISBN:4480039783 )

◇ エリック シュローサー 「ファストフードが世界を食いつくす」
草思社/楡井浩一訳 ISBN:479421071X

◇加藤 裕子「食べるアメリカ人 」
( 大修館書店 ISBN:4469244791