昨日買った古本

片岡義男著「夏から秋にかけての短編」
(角川文庫 ISBN:4041371805

収録の短編「雨の柴又慕情」は相当ヘン。
「僕」、日本語の女言葉を完璧に使いこなす女性エル・マクファスン、「僕」の妹の芙紗子、その友人のエレナ(オカマ)の四人は台風のため、ホテルで足留めをくらう。エレナ(オカマ)のチョイスで寅さん映画「男はつらいよ 柴又慕情」(ASIN:B000068RE6) をビデオ鑑賞し、寅やその妹さくらについての意見を交わす。
エルは、本来テレビの経済専門の記者。仕事で訪れた日本に興味を持ち仕事は小休止して日本に滞在中。もっか日本語についての本の構想を練っている、という設定。日本語についての本というのは、義男の「日本語の外へ」を彷彿させる。その着想を作中人物の、ジャーナリストの関心として、滑りこませているという案配か。
エルが日本語の女言葉を流暢に話すということ、とりわけ彼女がその機能を理解した上で話すことの意味がこの短編の肝のようだ。なぜなら、女言葉には、それを話すことで話者が己が女であることをを宣言する機能があるからだ。
したがって彼女が積極的に女言葉で会話するのは、彼女の女アピール、「男はつらいよ」風にいえば「マドンナ」宣言ということになる。
はたして、「僕」はマドンナのエルにどう対処したか?結末の妙ちくりんなユーモアは作者の真骨頂だ。そして、「雨の柴又慕情」は、寅さんへの片岡義男なりのオマージュでもあることに私はかなりビックリしている。


参考リンク:「ぼくのホームページ」の片岡義男角川文庫リスト。
http://www.monolith.co.jp/ital/kataoka/k-books/kb90.html#summertofall